
鳥羽・志摩の海女
海女の仕事は海に潜ってアワビ、サザエや海藻などの海の幸をとることです。長い歴史の中で育まれてきたその漁法には 自然と闘い、自然とともに生きる、 さまざまな知恵があふれています。




はじめに
“海女”とは、素潜り(すもぐり)でアワビやサザエ、海藻をとる漁を生業(なりわい)とする女性たちのことで、他に類のない女の漁師さんといえま しょう。
「3千年も前の白浜遺跡(鳥羽市浦村町)から、大量のアワビ殻と ともに鹿角製のアワビオコシと呼ばれる道具が見つかっており、 当時すでに海女がいたのは確かです。時代は下がりますが、万 葉集や歴史の書にも海女はたびたび現れるようになりますから、 海女が数千年にわたって活躍しつづけ、現在にいたるまで、そ の伝統的な漁を守ってきています。
人間自身がその肉体と知恵を使ってする海女の漁法は、動力 機械や情報通信技術に頼る近代漁法からは遠い原初的な漁法で ありながら、現在まで生き続けてきたのはなぜでしょうか。
海女は「50秒の勝負」といわれるように限界ぎりぎりまで息 を使いきって潜水作業を繰り返します。冷たい水の中のきびし い仕事ですが、海女たちは陸(おか)に上がれば実に明るく屈託のない性格です。疲れて冷えた体を焚き火で暖める海女小屋の中は笑 い声が絶えません。
自然の恵みに感謝しつつ漁をする海女たち。海に暮らしを賭 ける生き生きと逞しい女性の姿があります。さらに海女たちは 自然を頼りにする故に、アワビやサザエ、海藻を取り尽くさな いための様々な約束事をしっかりと守ってきたのです。さらに、 “磯のアワビも3年待てば、可愛い娘の嫁支度”と唄われたように、資源保護に努めてきました。
海女は志摩半島の大事な生業であるとともに、豊かな日常の 暮らし、晴れの祝い事やお祭りなどの総体を支える、生きた「海 女文化」なのです。
近年、海女は高齢化し、後継者が少なく、海女の伝統と文化が いつまで続くか心配されています。この本では、そんな海女の 作業、道具、習慣、風俗、獲物などから、歴史や文芸まで、海女の すべてを知っていただくために、わかりやすい図録としました。
大切な日本の文化遺産 海女”が元気で活躍するため、海女の 現状をご理解いただきたいと思います。